実は三島作品の中には宇宙人を主人公にした「美しい星」という小説がある。「仮面の告白」「午後の曳航」「豊饒の海」などの代表作の陰に隠れ、あまり目立たないが、「美しい星」は唯一のSFチックな作品なのだ。「美しい星」は62年に月刊誌に連載された長編小説で、三島37歳の作品。
あらすじを説明すると、埼玉県飯能市に住む資産家一家4人が円盤を目撃したことから、自分たちが宇宙人だったことに気付く。さらに人類を核戦争などの破壊から救うため平和運動に邁進する。これに対し、地球破滅を目指す別の宇宙人グループが登場。資産家一家の父親(火星人)とこのグループで人類の救済をめぐり激しい論争を展開するというものだ。
主人公が火星人、木星人、水星人、金星人の一家というのも三島作品の中ではかなりの型破りだが、発表当時は、「現代人、現代史批判として読み応えがある」「独創的な政治小説」と好評だった。
だが、天才の独創にも秘密があった。「随所に当会の影響がみられます」と話すのは、日本空飛ぶ円盤研究会の荒井欣一代表だ。荒井さんは、「三島さんは実は当会の会員だったんですよ」と明かす。
同協会の発足は55年7月。結成から約1年後に、荒井さんの自宅に一本の電話がかかってきた。「もしもし。円盤研究所ですか。入会したいのですが…。」と男性の声に、荒井さんが入会申込書を送付する旨を告げ、おもむろに名前を尋ねると、「三島由紀夫です」と答えたという。よもやいうが、まもなく返ってきた入会書には、「文士 三島由紀夫」と鮮やかに書かれていた。荒井さんは、「有名な作家でしょう。びっくりしました」と、当時の興奮を振り返る。三島の会員番号は「12」。同会は以降、五百人以上の会員を集めるが、この会員番号から三島が初期の会員だったことがわかる。三島が32歳の時のことだ。(つづく)
参考文献 UFOこそわがロマン 荒井欣一自分史