民報サロン(二足のわらじ)

飯野町振興公社の代表取締役が民報サロン(福島民報平成26年9月24日付け)にUFO物産館についての記事を書いていますので、紹介します。

「二足のわらじ」 川島 博

二年前の春、予期しないお話を頂いた。福島市と飯野町との合併で市の所有となった、千貫森UFOふれあい館・UFO物産館などの指定管理会社「飯野町振興公社」の代表就任を打診されたのだ。「なぜ私に」との思いがあったが、受ける決心をした。本業の会社経営が大変な時期に、畑違いの会社を抱え込む不安は大きかったが、受けたからには成果を出さなければならない。苦悩の幕が開けた。

今回は食堂と土産品を扱うUFO物産館についてご紹介したい。就任した時は、三年前の東日本大震災の余波で客数が半減し、以前の水準までお客さまを呼び戻すのは難しいと思えた。豊かな自然と素晴らしい眺望が魅力だが屋外を使えないもどかしさがあった。建物内でのサービスに絞り、売れないものを見直した。その筆頭がコーヒーである。コーヒー豆を確認して、売れない理由が分かった。もっと香りの高いコーヒーが欲しい。頭に浮かんだのが、飯舘村で抜群の顧客を得ていた椏久里珈琲(あぐりコーヒー)であった。

以前から客の一人であり、自家ばいせんコーヒーの素晴らしさは知っていた。このコーヒー豆を使えたら、状況が一変する自信があった。意を決し社長に直談判した結果、提供を承諾してくれた。しかも、コーヒーのいれ方まで教えていただき感謝している。社長を通じ、飯舘村の「までい」の心に触れた気がする。椏久里珈琲の威力は予想以上で、日に日に館内のにぎわいが戻ってきた。「皆、うまいものを求めている」と感じた。その実感を糧に、ラーメンスープの再生に取り掛かったのである。挑戦の始まりだ。

私の嗜好(しこう)によるが、最後の一滴まで飲み干せるスープは、鶏出し(だし)が一番だと思う。鶏の持つふくよかな香りと嫌みのない脂のうま味は鼻腔(びこう)をくすぐる。そして目標は、二種類の地鶏を使った「ダブル地鶏スープ」。地鶏のうま味を引き出すことがポイントだが、それほど難しいとは思っていなかった。

しかし考えが甘かった。できたスープは、とても満足のいくレベルではなかった。何が足りないのか、何が余計なのか。それから試行錯誤が続いた。食材の変更、火加減、分量調整などを試すたびに、スタッフの焦りが伝わってきた。それを尻目に「観光地ラーメンからの脱却」を掲げ、あえて叱咤(しった)激励し続けた。それから数週間後、彼らの努力によって徐々にレベルが上がり、ついに琥珀(こはく)色に澄んだ、納得のスープが完成した。

お客様の反応が心配だったが、次第に「おいしい」の言葉を聞くようになり、注文が増えた。おかげで、千貫森全体のにぎわいが戻り、正直ホッとした。ラーメンは嗜好品。私がうまいと言っても、まずいと感じる方も当然いる。現状のレベルで満足することなく、さらなる努力が必要だ。味に頂点はない。継続が肝心だ。目標を共有する仲間と挑戦できる幸せをうれしく思う。毎日食べても飽きない、私好みの一杯に出会えるのだから、ラーメンオタク冥利(みょうり)に尽きる。今、スタッフの笑顔を思い浮かべて思う。「二足のわらじ」も悪くないと。

参考文献 福島民報(平成26年9月24日付け)

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