一つしかない器

ある日の朝、UFO物産館で働くU子はラーメンスープの仕込みをしていました。

UFO物産館のラーメンスープは、ダブル地鶏スープと言って、会津地鶏と川俣シャモの二つのガラを使ったダブル地鶏スープなのですが、その日も寸胴には鳥ガラ以外にも長ネギなどの野菜も中に入っていて、もんもんと湯気が鍋から漂い、鍋の中はグズグズ煮たっていました。

U子は、スープを煮込んでいる間、ラーメンにトッピングするメンマ、もやし、煮卵などの準備を始めました。時折、逃げ恥の恋を口ずさみながら、時にはお玉を持ったまま、胸の前の手を交差させて踊ったりして、まだお客様など誰もいないUFO物産館にはU子の鼻歌と包丁のトントンという音が響いていました。

今日も元気いっぱいで、小気味よく包丁で長ネギをトントントンと小口切りにしていたU子でしたが、次の瞬間、包丁を目の前に持ち、じっと見つめながらU子は大きなため息をつくのでした。

そう、U子には、人に言えない秘密があったのです。

そろそろ開店の時間かとU子は時計を見て、何かを吹っ切るように、U子は券売機に電源を入れるのでした。

「いらっしゃいませ」

男性三人のお客様が来店しました。券売機の前でメニューを見ながら、何を食べるか考えている様子です。

その中の一人の男性が、券売機の上のチラシを見て、「あれ、これってこないだテレビでやってたピンカラ石ラーメンじゃね。」

「へえ、それじゃこれ食べてみる?」「じゃあ俺も」

「すみませ~ん。ピンカラ石ラーメン三つください。」

その時、U子は、ちびまる子ちゃんが青ざめた時とかに目の下に縦線が入ったりしたような顔になって、

「申し訳ありませんが、ピンカラ石ラーメンの器は一つしかないんです。」と言ったのです。

そうです。U子の秘密とはこれだったのです。

秘密を言えたU子は、気分も新たに楽しく仕事をするのでした。

(終わり)

追伸

器が一つなのは本当ですが、登場人物等はフィクションです。

ピンカラ石を目的で来られるお客様には御迷惑をお掛けすることもあると思われますが、あらかじめ御了承願います。

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